IRECセンター長便り ~能登の里山・里海世界農業遺産~
全国的に梅雨に入りましたが、金沢は空梅雨模様です。東北の被災地も21日梅雨に入ったようです。例年ならば最大の米どころで、雨は歓迎されるところですが、福島原発では雨で汚染水が溢れ出ないか心配です。
梅雨の雨はどこから来るのか。インド洋から吹き上げられた湿った空気が8.800mのヒマラヤ山脈にあたって、地球を西から回るジェット気流によって日本列島に雨をもたらします。ヒマラヤ山脈がなければ、梅雨がないことになります。梅雨がないと稲作はできず、私たちはヨーロッパや中央アジアのような牧畜遊牧の民になっていたでしょうか。しかし、この狭い列島で、急峻な山がちな地形では、とてもモンゴル平原のような遊牧生活はできません。
日本人は稲作漁労民族です。稲作は山の斜面を巧みに使って水を上から下に流す農法です。水は土の劣化を防ぎ、千年、二千年にわたる持続可能な農法です。天皇陛下の宮中の年中行事には米の豊作を祈るものがたくさんあります。新嘗祭(にいなめさい)、神嘗祭(かんなめさい)、瑞穂の国は稲作にまつわるものです。稲作が大丈夫なら日本人は生きていくことが出来ます。会宝産業は昨年から米作りと野菜作りをやっています。日本人の命の根源を実践している訳です。私たちははるか西方インド・ヒマラヤに感謝しなければなりません。
漁労とは魚や海産物を栄養源とする生活スタイルです。健全な里山があれば、里海は生命の宝庫です。魚は産卵、回遊場所さえあれば、何もしなくても立派に成長し、私たちに貴重な蛋白源を提供します。こちらも持続可能な漁法です。
能登半島が北東に折れ曲がったところに能都町真脇という集落があります。ここには縄文時代の常識を覆す4,000年にわたる定住遺跡があります。私たちは中学の社会の歴史で、縄文人は狩猟採集の原始的生活をしていたと教えられましたが、あれは嘘です。真脇ではイルカ漁が食生活を支えましたが、集落を見渡す丘に登ると、縄文人の頭の良さが一目瞭然です。100度ほど開いた幅約1,5km湾にイルカが入ると、ぐるぐる回るだけで外には出にくく、上手く誘い込んで捕まえていたことが分かります。
地球大気も海洋も国境はなく、私たちの生活は自然生態系を上手く利用して一万年の持続可能性を実現して来ました。能登半島世界農業遺産登録は、私たちに縄文から続く地球と共存する生活の知恵を思い起こさせてくれます。